次の時代にふさわしい価値をもつ住まい
人が長い時間を心地よく過ごすための空間構成も、このコンセプトルームの特徴だ。壁の位置や家具のレイアウトは、数々の住宅を設計してきた芦沢氏の経験を感じさせる。
「リビングスペースとダイニングスペースがまっすぐ平行に位置していたり、ダイニングをしっかり受け止める壁があったり、そういうことで空間がしっかりと決まる。家具も凛として見えてきます。またダイニングの横には壁で仕切れるワークスペースをつくりました。オープンな場所で仕事するのもいいのですが、美しく保つことは実際は難しいからです。キッチンに裏の動線をつくるような工夫もしました」
一方、壁面を飾るアートピースには、日本のスタジオ「THOUSAND」によるオブジェが選ばれた。再生パルプを素材とする手づくりのオブジェは、幾何学的なモチーフであっても温もりをそなえている。その価値は、リノベーションから生まれた空間や、銘木とは違った魅力をもつ木材と通底するものだ。またこの物件は、断熱性能や省エネルギー性も重視して国内有数の認証制度への申請を済ませている。こうした要素の積み重ねが、これからの時代にふさわしい本質的なクオリティをつくっている。
カリモク家具の加藤氏は、住まいづくりを通した芦沢氏とのコラボレーションが、既存のビジネスでは得られないものをもたらしていると語る。
「僕らとしてはビジネスよりもスタディの側面が大きい。芦沢氏がどんな世界観に基づき、どんなことにこだわっているのか。家具に関することに限らず、それを吸収しながらあらためて家具に向き合っているんです。標準的な間取りの家にどう家具を配置するかだけを考えていたら、同じような答えにしか辿り着けない。でも芦沢氏と仕事をすると、家具が人を幸せにする力はまだまだ高められるんだと思えてきます」
そして芦沢氏にとっても、R100 tokyoのリノベーションは単なる仕事ではないそうだ。「今回のコンセプトルームも、本来あるべき住まいがどんなものかを目指す思いが詰まったものになりました。そして、この思いは住む人に必ず伝わる」と彼は語る。
建築家がもつ職能をはっきりと定義するのは難しい。建物を設計することが第一義には違いないが、時には問題解決力が、時にはオリジナリティが、時には人間性が重視される。プロジェクトによって、デザインする対象も都市から日用品までと幅広い。そんな中で芦沢氏は「正直さ」という揺らぎようのない信念に基づいて、人々のための空間をトータルに、一途に創造してきた。その延長線上に、望ましい社会の姿をありありと思い浮かべることができる。